福祉サービスには訪問系、通所系、入所系などさまざまなサービスの形態がありますが、多くのサービスに共通する、介護職員を悩ませる困りごとといえば、入浴拒否です。対応に正解はありませんが、これまでの介護経験を踏まえた上で方法のご提案をさせていただきます。
まず、入浴を嫌がる原因をアセスメントしよう
ご利用者様が嫌がるのであれば、無理に入浴をしなくて良いと思われるかもしれませんが、失禁がある方や褥瘡(床ずれ)がある方など、健康上の理由で入浴をする事が望ましいご利用者様も大勢いらっしゃいます。だからといって、無理やり入浴をさせてしまうと次回も同じように拒否をされ、どんどん拒否が強くなる傾向にあります。なぜ入浴をしたくないのか、原因を探る事は対応を考える上でとても大切です。
私がこれまで対応してきたご利用者様の中で、入浴拒否の理由として多く挙がっていたものをいくつかご紹介します。
面倒くさい
「お風呂は好きだけど、とにかく服を脱ぐのもお風呂に入るのも面倒」と仰る方は案外多いものです。 職員がお手伝いをさせていただく事をお伝えしても、手伝って貰って入るくらいなら入浴しなくて良い、と介助も拒否をされる場合があります。
恥ずかしい
年齢を重ねても、羞恥心は消えるものではありません。 「異性に見られたくない」「パットを使用しているから、排泄が自立している人に見られたくない」「痩せているから見られたくない」など、人に見られる事が嫌で拒否をされる場合があります。同性介助にしたり、個浴対応をしたりと、プライバシーへの配慮が必要です。
認知症による理解力低下
認知症が進行して、お風呂そのものが分からなってしまう方もいらっしゃいます。ほかにも、「家に帰るから」「お客さんが来るから」「誰かが呼んでいるから」など、さまざまな理由を訴えられます。自宅で一切入浴をされていないのに「家で毎日入っているから」と話されるご利用者様もいらっしゃいます。
会話のキャッチボールから始め、難しければしかるべき対応を
入浴を拒否するご利用者様に「入浴」「お風呂」という言葉での誘導はNG。入浴したくないと訴えているご利用者様に、入浴やお風呂という言葉を使ってしまうと、更に頑なに拒否をされてしまう場合が多くあります。いきなり「お風呂ですよ」という声かけはせず、ご利用者様と会話のキャッチボールをしながら、浴室へ行くよう会話の誘導を行っていきましょう。
私がよく行っていた声掛けとしては、天候や季節の話題、体調確認、世の中のニュースの話題などから始まり、少しずつ浴室へ行くような会話の流れに持っていきます。
そうした声掛けで難しかった場合は、下記のような対応をすることもあります。。
NsやDrによる説得
入浴拒否をされるご利用者様のなかには、医師や看護師の言う事であれば素直に聞いて下さる方がいます。 受診の際に、ご家族経由で医師から入浴するよう伝えていただく場合もありますし、施設系であれば看護師から話をして貰う場合もあります。 「皮膚状態を確認させて下さい」とお声をかけて浴室に来ていただく方法もあります。
体重測定だと声をかける
通所系であれば、定期的に体重測定を行う施設が多いと思います。 体重測定のためだとお伝えして浴室に来ていただき、服を脱いでいただきます。 実際に測定をして、「服を脱いで体が冷えてしまうので、少し温まっていきませんか?」などの声掛けを行う事で入浴していただける場合があります。
仲の良いご利用者様と一緒に入浴していただく
介護サービスの種別にもよりますが、施設系サービスでは集団で入浴を行う事が多いです。 1度に複数人が浴室に入るため、顔馴染みではない方と一緒になる事も少なくありません。 なるべく、仲の良いご利用者様同士で入浴をしていただけるように段取りをします。 時には、仲の良いご利用者様から入浴に誘っていただくようにお願いする事もあります。
特別な湯だと伝える
話の持っていき方にもよりますが、「今日しか入れない〇〇の湯をご用意しましたよ」「(体に痛みがある方には)痛みが和らぐお湯ですよ」などの声掛けを行う場合があります。 時には、花や果物を浮かべたり、入浴剤をいれたりする事もあります。 なかには、定期的に温泉のような「変わり湯」を提供している施設もあります。 入浴剤はお風呂のシステムによっては、入れられない場合もありますので、事前に確認するようにして下さい。
入浴介助をする上で必要な心構え
入浴介助のための具体的な方法を見てきましたが、最後に、介助をする上で介護職員に知っておいてほしい基本的な考え方や心構えをご紹介します。
ご利用者様の気持ちを大切にしよう
入浴というのは、人前で服を脱ぎ、無防備な全裸になる行為です。介助をする職員の立場になると、「お風呂は気持ちいいから入りましょう」と言ってしまいがちですが、私達も気軽に人前で服は脱げませんよね。
大勢の前で大声で「〇〇さん、お風呂ですよ」と声をかけるのではなく、個別にそっとお誘いする方が良いと思います。
また、拒否があるご利用者様には、1番最初に声掛けをして、拒否をされたら時間を置きま
す。
その日の気分や、その時の精神状態によっても反応が変わってきますので、少し時間をずらすことでスムーズに入浴していただける事もあります。
お風呂は夜に入るという習慣のご利用者様も少なくありません。
ご本人の気持ちを可能な限り尊重して、自宅との環境の変化に考慮した上で入浴の声掛けを行うようにしましょう。
信頼関係の構築が第一
声をかける職員によってご利用者様の反応が違うことも珍しくありません。
自分が声をかけてダメだった時には、別の職員に変わって貰う事も方法の1つです。
ただ、ご利用様と信頼関係を築く努力を怠ってはいけません。
うまく両者の間で信頼関係が構築できると、多少拒否があってもコミュニケーションを取りながら入浴していただく事も可能になります。
認知症があるご利用者様であっても、人生の先輩であるという敬意を払って接する事が望ましいのです。
ここでご紹介してきた内容の多くは、小手先のテクニックに過ぎません。
ご利用者様の気分や精神状態は日々変わるものですので、きちんと信頼関係を築いた上で入浴介助を行えると良いと思います。
霜鳥香織(デイサービス 生活相談員)身内が要介護状態になった事をきっかけに福祉の道を志し、福祉系大学へ進学。卒業後、療養型病棟、デイサービス、グループホーム、有料老人ホームにて、介護士、生活相談員、管理者として従事する。自立支援、利用者主体を念頭においたサービス提供を心がけている。介護職員初任者研修スクールの講師も担当する。
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