介護現場で働く職員の大多数は、腰痛に悩みながら仕事をしています。 腰痛とは無縁の人でも、間違った方法で移乗を続けていると身体に負荷がかかって腰を痛めてしまいます。 無理のない移乗方法を覚えて、腰痛にならないようにしましょう。
腰痛になる原因とは?
腰痛は介護の仕事の職業病のようなものです。しかし、正しい体の使い方をすれば、腰への負担を減らすことができます。 これまで腰痛に悩む職員を多くみてきましたが、共通していたのは以下のような間違った力の使い方でした。
腕の力だけで移乗しようとしている
特に移乗に慣れていない時には、腰を低くせずに腕の力だけでご利用者様を抱えようとしてしまいがちです。 力任せの移乗を続けていると、腰や肩に負荷がかかり、身体を痛めてしまいます。
ご利用者様と自分の身体が離れている
介護の仕事に慣れないうちは、ご利用者様と身体を密着させる事に抵抗を感じてしまう事も少なくありません。 お互いに遠慮してしまうと、無駄な力を使うことになります。
正しい移乗方法を理解していない
介護職員とご利用者様が1対1で移乗を行う場合もあれば、2対1や3対1で移乗を行う場合もあります。 それぞれ注意すべきポイントが異なりますので、正しい移乗方法を習得するようにしましょう。それでは、車椅子からベッドへの移乗方法を参考例として考えてみましょう。
パターン別 移乗の注意すべきポイント
1対1の移乗方法
移乗を行う前に、車椅子とベッドの角度が20度から30度くらいになるように配置します。
最近では、アームレストを跳ね上げるタイプの車いすも多くなっており、そのタイプの場合は、ベッドに対して平行に車いすを配置することもあります。
通常の車いすを使用する場合は、ベッドと車いすの間に距離があると隙間にご利用者様の身体が落ちたり、移乗時に臀部をアームレストにぶつけたりしてしまいます。
また、角度が開きすぎていると移乗のために必要以上の力が必要となってしまいます。
腰を落として、ご利用者様と密着するようにして全身を支えて移乗を行いましょう。
2対1の移乗方法
職員の1人がご利用者様の腰を支える
職員の1人がご利用者様の身体を支え、もう1人の職員がベッド側からご利用者様の腰のあたりを支えて、移乗動作の補助を行います。
そうすることで身体を支える職員の腰への負担も軽減して、より安全に移乗を行う事が出来ます。
特に体格の大きな男性の方や体重が重い方、職員1人では移乗が難しい方には2対1で移乗を行う方が安全です。
ただし、ベッド側から腰を支える時にズボンをつかんで移乗の補助をするのはNGです。
ズボンをつかんでしまうと、おしりにズボンが食い込んでご利用者様に不快な思いをさせてしまいますし、素材によっては生地が伸びてしまいます。
ズボンをつかむのではなく、ご利用者様の腰や臀部をしっかりと支えて移乗を行うようにしましょう。
ベッドと車いすを平行に配置して移乗を行う
ベッドと車いすの配置を平行にして、ご利用者様に腕を組んでいただき、職員の1人が組んだ腕を支えるようにして自分の腕を入れます。 もう1人は、ご利用者様の膝の裏あたりに手を入れて、職員2人で息を合わせてベッドへと移乗します。 移乗のタイミングがずれてしまったり、力の入れ具合が不適切だったりすると自分の身体に負荷がかかるばかりか、ご利用者様にも恐い思いをさせてしまいます。 ご利用者様の身体の状態や皮膚状態、精神状態などによっては、事前にご利用者様の背中にバスタオルを敷いておき、バスタオルをつかんで移乗を行う場合もあります。 対象となるのは、リクライニング式の車いすを利用されている方や手足に拘縮のある方、皮膚が弱い方などです。
3対1の移乗方法
寝たきりの方やフォーレ留置の方など、主にリクライニング式の車いすを使用されているご利用者様が対象となります。
3人で移乗を行う場合は、ご利用者様の背中にバスタオルを敷くタオル移乗が行われます。
車いすとベッドを平行に配置して、職員の1人はご利用者様の肩から頭のあたりのバスタオルを持ちます。
もう1人は腰のあたりのタオルを持ち、3人目は膝あたりのタオルを持ちます。
3人でタイミングを合わせて移乗を行いますが、バスタオルだけをつかんでいるとタオルが切れたり、宙に浮かんだ途端にご利用者様の身体がタオルの中心部に沈み込んだりしてしまいます。
私なりのやり方ですが、頭側を支える時はタオルの下からご利用者様の頭を自分の前腕に乗せるようにして支え、肩のあたりの衣類とタオルを一緒につかみます。
腰や膝のあたりを支える時も、タオルの裾とご利用者様の衣類を一緒につかみます。
特に膝を支える時は、膝裏に腕を回すようにしてタオルごと支える事もあります。
バスタオルだけでご利用者様の全体重を支えようとすると、中途半端に腰を曲げたまま力を入れなければいけないため、腰や肩を痛めやすくなります。
不安があるなら練習あるのみ!
新人職員から「やり方に不安がある」「移乗がうまく出来ない」「変に力を入れてしまい、腰が痛くなる」という相談をよく受けます。 次第に慣れてくるものではありますが、職員が不安に思うという事はご利用者様はもっと不安に感じています。 先輩職員と一緒に練習をしたり、自分のやり方を見て貰ったりしながら、身体に負荷のかからない力の入れ方や移乗動作を学んでいきましょう。 また、腰痛予防のためにベルトなどで腰を保護しておくことも大切です。
霜鳥香織(デイサービス 生活相談員)身内が要介護状態になった事をきっかけに福祉の道を志し、福祉系大学へ進学。卒業後、療養型病棟、デイサービス、グループホーム、有料老人ホームにて、介護士、生活相談員、管理者として従事する。自立支援、利用者主体を念頭においたサービス提供を心がけている。介護職員初任者研修スクールの講師も担当する。
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