仕事の辛さや人間関係等、介護職員さんは皆、多かれ少なかれ悩みを抱えていると思います。「本当は続けたいけど耐えられない…」と「退職」が頭をよぎる方もいらっしゃるでしょう。では、長く介護の仕事を続けている方は、どのように悩みと向き合い、モチベーションを保っているのでしょうか?今回は、介護保険がスタートした頃から介護職員として働き始め、今日まで16年介護業界に携わっている安諸さん(正吉福祉会 施設サービスグループ グループマネージャー)に、「辛い」「辞めたい」と感じた時の対処法をお伺いしました。
「利用者様のため」その思いで今まで続けてこられた
ー福祉の専門学校を卒業後、16年介護にたずさわっているとのことですが、辛い、辞めたいと思ったことは無いですか?
辞めたい、苦しいと思ったことは何度もありました。しかし、私が辞めてしまうと利用者様を介護する人がいなくなってしまう、と思うと結局辞められませんでした。やはり「利用者様のために」という思いが大きかったと思います。
チーム内には私と同じ考えを持った同期がいたので、その存在も心の支えになりましたし、「この人のようになりたい」というロールモデルを決めることで仕事に対するモチベーションに繋げることができました。
ー実際にどのようなことが辛かったですか?
やはりお別れですね。いくら経験を積んでも、本当にいい支援ができた、良かった、と思える方は一人もいらっしゃいません。あの時こんな支援ができたんじゃないか、声掛けがあれば最後の時間寂しい思いをさせなくて済んだのに、ご家族に5分早く連絡できれば息があるうちに会えたのに等、ああしておけば良かったこうすれば良かったと思うことばかりです。1人の利用者様の看取りで振り返ったことを、次の方に活かせればと思うのですが中々難しいですね。職員・本人・ご家族の理想の最期を上手く合致させることは。
そんな看取りに悩む時期もありましたが、外には出さずできるだけ笑顔をつくるようにしました。どんな時も自分が笑顔でいれば相手も笑顔で返してくれる、それが自分のエネルギーになっていたからです。
それでもダメ、笑顔を作るのも苦しい、そんな時は、子どものように良くしてくださる利用者様のところへ行って、話を聞いてもらいます。自分より長く生きている大先輩なので、色々な知恵を授けていただきました。ただ一度悩みを相談するとずっと心配をさせてしまうので、ここぞという時にしか使えない手でしたが。
どうしても辛ければ、落ちるところまで落ちてもいい
ー「辛い」「辞めたい」と考える介護職員は、どのすれば良いのでしょうか?
私が介護業務に携わって学んだ、辛い時の対処法をいくつか挙げさせていただきます。
まずは、「自分の中で一番と思えるもの」を見つけてみてください。第三者からの評価を気にすることはありません。とにかく自分で一番自信を持てるスキル、経験、知識を探しましょう。見つかったらその自信をキープできるよう心がけてください。自分の中の「一番」が持てれば、辛いことがあってもくじけづらくなります。
二つ目は、一番失敗した経験を思いだしてください。その時周りにかけた迷惑や恥ずかしさを考えると、今自分が悩んでいることはちっぽけだと感じませんか?私の一番の失敗は、訪問サービス時に社用車を一台壊したことです。訪問も遅れましたし、サービスを提供できなかった利用者様もいらっしゃいました。もちろん同乗していた社員にも、施設にも法人にも迷惑をかけました。この失敗を思い出すと、大概のことはこれよりマシだと思えますね。
三つ目は、一番成功した体験を思い出すことです。成功体験を思い出すと、もう一度頑張ろうと力が湧いてくるかもしれません。私の場合は、脳こうそくの後遺症で言語障害を患っている男性の介護に携わっていた時の出来事がこれにあたります。利用者様をご自宅にお送りしている途中ちょうど地震があったんです。自宅に着いたらエレベーターが止まっていて、一緒に住んでいる奥様に連絡すると体調が悪いとのことだったので部屋がある9階までおんぶして送り届けました。到着し、いつものクッションに座っていただいたところ、なんと「ありがとう」とおっしゃったんです。障がいがあってお話しできないにも関わらずですよ。その時奥様もその場にいらっしゃったんですが、後で「一人で介護していて言葉の支えがなかった。でも『ありがとう』を聞いて、今までの辛いことが流れ、最後まで看取ろうと思えた」とおっしゃってくださいました。「介護職をやっていて良かった」と強烈に思いましたね。
仕事を始めたばかりだと難しいと思いますが、その場合は今まで勉強してきたことや実習で学んだこと、この業界に入ろうと思ってきたときの熱意や関心を思い出して糧にして欲しいです。
それでもやはり、どうしても辛いことはあると思います。私も誰にも相談できず一人で悩んでいたこともありました。そんな時は、無理して頑張ろうとせず、落ちるところまで落ちてしまいましょう。無理して上がろうとするとしんどくて凄くエネルギーがいりますが、どん底まで落ちてしまうと、小さな光を見つけて上がっていくことができると思います。その上昇するスパンは人によって遅かったり早かったりするかもしれませんが、遅くても気にしないようにしてください。無理して起き上がろうとすると精神的に追い込まれるし、肉体的にもついていけなくなります。状況が許されるのであれば、一度お休みをとり、仕事から離れてリフレッシュされるとよいと思います。
ー安諸さん自身は、悩んでいる社員に対してどんな対応をされていますか?
悩んでいる職員に対しては良い点を評価するようにしています。「あなたにはこんな素質がある」「こんな機転があるのが素晴らしい」「利用者様にこんな言葉をかけてもらったことは私もないよ」と本心を伝えます。もちろんこれらの情報は私が気付いたことだけでなく、周りの職員から得たものも含みます。自分の良さだけでなく、「周りはあなたを見ているよ」ということが本人に伝われば、「もうちょっと頑張ってみようかな」と思えますよね。
また、介護職員の大きな悩みの一つに「給与」があります。そこで頑張った人に対してきちんと報酬がでるよう、処遇改善制度や資格取得応援制度をつくりました。
あわせて「スキルアップの道筋が示されていない」こともモチベーション低下につながるため、職種と求められるスキルを明確にし、将来はどうなりたいのか、そのために必要な資格や研修は何か、きちんと説明するようにしています。
辛いときは原点に立ち返り、共感しあう機会を
ー悩みを抱えながら働いている介護職員にメッセージをお願いします。
介護の世界で働いている人は、人一倍「なにか貢献したい」という熱意を持っていると思います。
職業を選択する際に「福祉だ」という発想を持つことって多くないですから。
辛いことがあったら、その“自分がなぜこの仕事についたか”という「原点」に立ち返ってみて欲しいです。
特に職員同士で介護観を共有しておき、何かあったら原点に返れるようにしておくと良いです。自分の話を誰かに共感されるだけで、救われることってありますから。苦しいときや悲しいときほど、共感できる仲間や自分のことを理解してくれる人がいるということは、大きな心の支えになります。後の仕事に対する姿勢も変わってくると思います。
同時に、自分にとって癒しとなってくれるもの、癒しを感じる場所を見つけられるとなお良いと思います。家庭や友人関係、自然などプライベートな癒しも人間にとっては不可欠ですが、介護の中に癒しが見つかると、仕事がぐっと楽しくなります。
私が新任の時は、悩みがあるとご利用者様のところに行き、お話をすることが大きな癒しとなっていました。少しずつ経験を積み長く関わりを持つことで、「褒められた」、「ご家族と信頼関係が結べた」など支援の中で癒しを感じることができるようになります。苦しい中でもそういった癒しを見つけることができれば、やりがいが感じられ、仕事がしやすくなると思います。
安諸 剛志(正吉福祉会 施設サービスグループ グループマネージャー)高校卒業後に福祉専門学校に入学し、卒業後は正吉福祉会に入社。特養や訪問など様々な形態に携わり、介護業界歴は今年で16年目に。マネージャーとして職員、利用者、家族がそれぞれが笑顔でいられる環境をつくりあげることを使命としている。
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