「高齢者の気持ちに寄り添える介護職員になりたい」。多くの介護職員がそう望んでいますが、実際の現場では高齢者の望んでいることをしっかりと受け止められず、退職に至るケースもあるようです。
今回は、専門学校内に高齢者サロンを設け、学生と高齢者が触れ合う機会を増やす取り組みをしている東京福祉専門学校専任講師の霜井理名さんにお話を伺いました。
―東京福祉専門学校で取り組まれている「高齢者サロン」とはどのようなものでしょうか?
当校の介護福祉士科のカリキュラムの一つである「地域支援プログラム」を実施する場が高齢者サロンです。毎週学校を解放し、学生が地域の高齢者の方と触れ合い、様々な気付きを得る場となっています。
学生は毎週の「高齢者サロン」の時間に、サロンで行う内容の企画から運営までを主体的に取り組んでいます。
高齢者との触れ合いを通して、どんな企画だと喜んでもらえるかを考えて形にする、”企画から運営の繰り返し”の中で、高齢者の気持ちを受け止めて行動する方法を身に付けていきます。
最近も、高齢者の方に着付けの指導をお願いする企画や、ボーリング大会などの企画を実施し、とても盛り上がっていました。
―地域の高齢者の方の反応はいかがですか?
毎回20人程度の方が参加してくださいますが、リピーターの方もいらっしゃいます。学校の玄関先のゴーヤカーテンも、高齢者サロン参加者のお一人が育ててくださっています。
地域の方と学生や学校関係者が気軽にコミュニケーションをとって協力できる関係性がなければ続けられないことだと思うので、本当にありがたいですね。
―”高齢者サロン”をカリキュラムに加えた背景は何でしょうか?
学生と高齢者の方とのコミュニケーションの場として設置しました。
当校の学生の多くは、「高齢者の方が好き」で、自分が役に立つことで身近なおじいちゃん、おばあちゃんが喜んでくれるのが「嬉しい」という思いが介護を学ぶ動機になっています。 しかし、従来の実習の見学先は特別養護老人ホームが中心で、利用者は寝たきりや病状が重い方が多く、車椅子の介助といった“技術”は学べても、意思疎通をはかることは難しいという課題がありました。 そこで、高齢者の方とコミュニケーションを取る環境づくりがしたいと考えたのです。
―なぜ、コミュニケーションを重視されるのですか?
介護職を始める方の多くが、「やってあげたい」という上からの目線を持ってしまいがちです。当校では、介護の仕事をする上では何よりも「させていただく」といった相手を敬う気持ちが大切だと考えています。
通常の授業でもこの目線は意識的に教えていくのですが、高齢者サロンでは実際に高齢者の方とお話ができますから、高齢者の方お一人お一人にお気持ちがある、ということが実感できます。
「高齢者と向き合う目線」を変えていく段階で、このサロンは大きく役立つと思っています。
―「高齢者と向き合う目線」によって、介護サービスに従事した時にどのような違いが出てきますか?
卒業後に仕事に入って、寝たきりの方と接する時のコミュニケーションの取り方にも違いが出てきますし、長い目で見ると離職率の低下にも繋がると思います。
当校の卒業生のほとんどが介護福祉士として現場に就いていますが、離職率は1年で1.7%で、筆記試験だけを受けて介護の仕事を始める方と比べて非常に少なくなっています。また、介護から他の業界への転職はほとんどありません。
この背景には、授業や実習で学んだ知識・技術と、高齢者サロンで身に付けた”高齢者の方の気持ちをくみ取る力”が繋ぎ合わさり、介護の仕事をしていく上で必要な土台を作ることができているのだと思います。
―学生の反応はいかがですか?
率直に「喜んでくれることが嬉しい」「高齢者の方と同じ目線で接することができるようになった」という感想が多いですね。また、卒業後に就業した学生からは、「自分から提案して動く仕事の仕方が身に付いた」といった報告も受けます。
高齢者の気持ちをくみ取り、更にそれに応えて能動的にサービスを提供するという、“介護職員としての素養”を学んでくれたのだと、嬉しく感じます。
―介護の仕事を目指す方にメッセージを
介護業界は今、離職率が高い状況にあります。離職してしまう方の多くが、座学の試験だけを受けてすぐに現場にいってしまった結果、理想と現実のギャップに本人が苦しんでしまったというケースが多いのです。
長く続けるためには、しっかりとした知識と技術に加えて、気持ちの面を学ぶ必要があると思っています。
介護の現場で働いてみたい!という方に1人でも多く、崩れない土台をしっかり持ってから就業し、長く続けてほしいと思っています。
霜井理名 様学校法人滋慶学園 東京福祉専門学校 専任講師
シドニーで介護福祉の仕事を経験。帰国後は介護福祉士の資格を取得し、介護職員として12年間のキャリアを積む。2年前より現職に至る。
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